「名もなき王国」を読んでみた。

倉数茂氏の新刊「名もなき王国」を読んでみたので感想などを書いておきます。氏の長編としては「黒揚羽の夏」、「始まりの母の国」、「魔術師たちの秋」に続く4冊目です。過去に

 「黒揚羽の夏」を読んでみた。
 「始まりの母の国」を読んでみた。
 「魔術師たちの秋」を読んでみた。

と書いていてちょっとしたファンなんです。
さて、今回の作品は「幻想小説」といううたい文句だったので、「始まりの母の国」に連なるファンタジーかと思っていたのですが、主な舞台は現代の日本で「黒揚羽の夏」や「魔術師たちの秋」の系列のような作品だと感じました。

さて、この作品はミステリーではないのですが、最後にちょっとしたどんでん返しがあるので、ストーリーはあまり詳しくは語れません。そこで amazon の内容紹介をあげておきます。

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売れない小説家の私が若手作家の集まりで出会った、聡明な青年・澤田瞬。彼の伯母が、敬愛する幻想小説家・沢渡晶だと知った私は、瞬の数奇な人生と、伯母が隠遁していた古い屋敷を巡る不可思議な物語に魅了されていく。なぜ、この物語は語られるのか。謎が明かされるラスト8ページで、世界は一変する。深い感動が胸を打つ、至高の“愛”の物語。
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さて、「序」と「一 王国」は ここ で読むことができます。 
これを読むと分かるように、収められた各々の作品は私、澤田瞬、沢渡晶(澤田の伯母)の作品の体で表現されています。簡単に書いておくと、

 王国 : 私 (私の話と澤田瞬から聞いた沢渡晶の家の中のことを書いている)
 ひかりの船 : 私 (澤田瞬から聞いた澤田夫婦のことを書いている)
 かつてアルカディアに : 澤田瞬
 燃える森 : 沢渡晶
 掌編集 : 沢渡晶
 幻の庭 : 私

掌編集の中の「螺旋の恋」以外の作品は各々が緩い関連があって、登場人物の名前が同じだったり、同じような状況が書いてあったりします。しかし、決して密な関係にあるものになっていないのです。
この異質な「螺旋の恋」はかつて SF Prologe Wave に掲載されていて読んだことがあります。
「孤独な少年が想像の中で塔の聳える街・国を作り出し、その住民として一人の少女を想像・創造します。ずーっと住民は少女一人だったので、その少女は想像の中で一人の少年を創造していった。」
というストーリーで、合わせ鏡のような構造をしている物語です。
この構造はこの「名もなき王国」の骨組みと同じなのだと思います。なので、ちょっと全体に関連のないストーリーが作品として挙げられているのは意味のあることでしょう。


さて、この作品群の中で、一番好きなのは「かつてアルカディアに」でした。SF風で、半島に閉じ込められている人達の物語です。
ある伝染病が発生したため、実効的に世界を支配してしている人間ではないAIのようなものに隔離されていて、食料品など生活必需品はコンテナで定期的に送りこまれています。
「プリズナーNo.6」のような世界ですが、ときどきコンテナで、住民に瓜二つな人物(ただし記憶は持っていない)が送り込まれます。これは殺さなければいけないようです。
AIは何を考えているのか?「惑星ソラリス」のように得体の知れない相手です。最後にはそこから少年と少女が脱出を試みるのですが、その後はどうなるのか?
続きをよみたくなるような作品でした。

幻想小説ということで、全体を通して読むとその通りですが、デリヘル嬢の送迎のアルバイトの描写など妙にリアルで、普通の小説として読んでも十分楽しめるものでした。

目次--------------------

序 
一 王国
二 ひかりの船
三 かつてアルカディアに
四 燃える森
五 掌編集
    少年果
    螺旋の恋
    海硝子
    塔(王国の)
六 幻の庭

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