佐藤勝彦先生の「宇宙論入門」を読んだ

このブログで「宇宙論入門」というと「「ドジッター宇宙」について(2)稲垣足穂が表現したもの」で示したように稲垣足穂翁のそれを示していますが、ここでは佐藤勝彦先生の「宇宙論入門」を読んだ感想などを書いてみましょう。

出版されたのが 2008 年なので、宇宙の年齢は 137 億年という記述になっていますが、最新データでは 138 億年らしいのですね。そのこと位が違うのですが最新宇宙論の良い要約になっていると考えます。
プロローグでSF的なお話から始まってます。フリードマン → ルメートル方程式という段階で、私的には、もう「ビッグクランチ」ってないのか?と思っていたので、ちょっとビックリしました。これは「第4章 宇宙の未来」の内容の先取りですが、どうも否定されたわけではないようです。
「第1章 宇宙論の始まり」では、大雑把にいうと「アインシュタイン方程式 → 宇宙項の導入 → 宇宙の膨張(ハッブルの発見) → ビッグバン宇宙 → 逆に遡ると1点から宇宙が始まる」というストーリーが語られます。このなかで、フリードマン方程式が語られ「ビッグクランチ」も視野に入れた振動宇宙にも触れられています。
「第2章 素粒子と宇宙―インフレーションという鍵」というがこの本で最もエキサイティングで読み応えがありました。真空の相転移に従って、まず「重力」が分かれ、次に「強い力」と「電弱力」に分かれ、最後に「電磁力」と「弱い力」とに分岐していく様を、「ギンズブルグ・ランダウ理論」つまり超電導のアナロジーで説明するための、インフレーションモデルを構築したご本人なので当然でしょう。
この超電導でW型のポテンシャルが出てきて、「自発的対称性の破れ」でマイスナー効果が現れて、「電磁力が遠くまで届かなくなる」→「光子が質量を持つ」ということになりますが、このアナロジーでヒッグス機構が弱い力の媒体粒子(W粒子とZ粒子)が重い質量を持つことが説明されます。この話、ヒッグス粒子発見の際に聞いていればもっと納得できたのですが。。
さらにご存じのようにインフレーションモデルは宇宙の「地平線問題」と「平坦性問題」が解決されます。
ビッグバン直後の宇宙ではまだ時間が十分に経過していないため、お互いに光速で通信できない(因果関係を持てない)領域があるんですが、現在では時間が十分経過しているので、因果関係を持てなかった領域も同時に観測できるようになりました。そうすると、ビッグバン直後の宇宙で因果関係を持てない領域同士が同じような様相を呈していることが分かります。これはおかしくないか?因果関係を持てないのなら違って当然ではないか?というのが「地平線問題」ということらしいです。インフレーションモデルではビッグバン前の急激なインフレーション中にこれらの領域は十分に因果関係を持ちうる距離にあったということができます。
また、現在の宇宙の曲率がほぼゼロで曲がっていない平坦な空間ですが、なぜ140億年近く曲率がほぼゼロなのか?というのが「平坦性問題」です。これはフリードマン方程式からかなり微調整しないと実現出来ないものらしいです。インフレーションモデルでは初期の曲率がどうであれ急激膨張が曲率をほぼゼロにしてしまうとのことです。
また、ビッグバンは相転移の際の潜熱が発現したもので、現在の宇宙背景放射のゆらぎもインフレーションで説明できるとのことです。
ここで、「真空のエネルギー」というのはアインシュタイン方程式の宇宙項に当たるもので、エネルギー密度としては一定ですが、空間が膨張するとそれに従って真空のエネルギーは増大するのですが、それではエネルギー保存則に反しないか?という疑問に対し、その分ポテンシャルエネルギーが減少しているとのことです。地表に落下する質点を考えると、落下するにつれて運動エネルギーは増加していきますが、高度が減るため重力ポテンシャルエネルギーが減少していくことに似ています。

ちょっと、第2章について書きすぎてしまいました。その他の章は気になったことを書いておきます。
「第3章 見えてきた宇宙の歴史」では現在の加速膨張宇宙が、第二のインフレーションではないか?という話題が気になりました。
そうだとすると、このインフレーションにおける相転移とはなんなんだろうか?また、この第二のインフレーションは何時終わるのか?という疑問が残りますね。

「第4章 宇宙の未来」では、「宇宙進化レベルの未来は人類が確認できないものかも知れないので科学の領域ではない」という考え方はそれなりに納得しました。
ところで、ここでビッグクランチという宇宙の終焉が未だ可能性があるのでちょっと驚きました。

「第5章 マルチバースと生命」ではベイビーユニバース→マルチバースということと、人間原理について説明されています。

ここでは触れませんでしたが、超ひも理論とブレーン宇宙のことも触れられたいました。

というわけで、数式を使わずに現在の宇宙論の概要を知るにはとても良い本だと思いました。
一応、「宇宙論Ⅰ」を斜め読みしていたので、分からなったところを分かり易く説明されていて大変有意義な読書となりました。

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目次

プロローグ ビッグクランチからの脱出

第1章 宇宙論の始まり

 1 アインシュタインの宇宙
 2 膨張宇宙の発見 
 3 ビッグバン理論の確立  
 4 宇宙の始まり 

第2章 素粒子と宇宙―インフレーションという鍵

 1 力の統一理論と宇宙
 2 真空の相転移と力の分岐
 3 インフレーション―初期宇宙の急膨張  
 4 ミクロのゆらぎからの誕生―量子宇宙 
 5 高次元空間に浮かぶ膜―ブレーン宇宙 

第3章 見えてきた宇宙の歴史

 1 宇宙の見えない主役―暗黒物質
 2 宇宙の本当の主役―暗黒エネルギー 
 3 現在は第二のインフレーションか 
 4 精密に測定された火の玉宇宙
 5 宇宙の謎は解けたのか?

第4章 宇宙の未来

 1 加速膨張を続ける宇宙
 2 暗黒エネルギーの消えた宇宙 
 3 ビッグクランチと宇宙の終焉 

第5章 マルチバースと生命

 1 宇宙が無数に生まれる
 2 なぜ「この宇宙」なのか? 
 3 宇宙における生命

あとがき
参考文献

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